私と50周年 7

■ 浄土真宗親鸞会結成50周年

光あればこそ 苦労が苦労でなくなった

「信心決定。ただ1つの目的に向かって、がんと進んできました。心に仏法があるから日々楽しい。苦労が苦労と思えなかった」。滋賀県のFさん(85)は、高森先生と出会い、ともに歩んだ50年を振り返る。

滋賀県 Fさん

 多賀大社の参道に、神社御用達の和菓子屋がある。20歳を過ぎ、そこの縁談を持ちかけられた。結納まで済ませたところで叔父が猛反対。相手の家まで行って白紙に戻し、代わりに仏縁深い村で、新たな縁談をまとめてきた。

「それがこの在所でしたんや。寺の鐘が鳴れば、村中総出で寺に参って、田んぼにはだれもおらんようになる、そんなところでした」

 前の縁談先とは大違いの寒村だったが、仏法中心の生活がそこにはあった。
「あのまま和菓子屋に嫁いでいたら、ありがたい神様や、と今ごろ言うてたかもしれん。人の運命なんて、分からんものです」

 だが農村の生活は過酷であった。両親が教師という家庭で育ち、畑仕事の経験はない。女学校を出たら東京へと夢みていたFさんにとって、朝から晩まで泥まみれで働く毎日は、絶望以外になかった。こんな生活が死ぬまで続くかと思うと、嫁いだことをつくづくのろった。田んぼに両足つかりながら、実家の方角に向かい、「帰りたい」と何度もつぶやく。だがそんな自由はどこにもなかった。

 苦しい人生、なぜ生きる? 答えの出ない悶々とした心に、仏法だけが明かりであった。
「でも寺の説教は、いつも念仏、念仏ですやろ。だから念仏さえ称えれば、死んだら極楽に参らせてもらえるんやと皆思ってたし、私もそうだった。そやけど、いくら称えても何ともないしなあ」

 念仏をありがたい、と言う年寄りはたくさんいたが、何がありがたいのか分からない。布教使に何べんも聞いたが、

「あんたみたいな者の口からお念仏が出てくるのも皆、阿弥陀さまのお働きやで。ありがたくないか?」
と言われる。それもそうかと胸に納めた。

 33歳の時、近隣の寺で高森顕徹先生のご説法があった。
「その在所に入っただけで聞こえてくる、大きなお声でした」。本堂は人であふれていた。信心決定しなければ極楽には往けん。その信心に卒業がある。決勝点がある。だからそこまで進みなさい! 大音声の説法に、皆、魂をわしづかみされたように聞き入っていた。さらに「念仏は弥陀に救われた人が、称えずにおれないお礼である」と。初めて聞くことばかりであった。

「でも親鸞聖人や蓮如上人のお言葉を挙げてお話しくださいますやろ、この先生に間違いない! 心がスカッとしました。同時に今までの寺の話は何やったんかと」
 毎年12月、自宅に先生を招待してご法話を開くようにもなった。仏間に立つと、今もその光景が目に浮かぶ。ふすまを外して四間をつなぎ、200人は優に座れるようにしてもすぐにいっぱい。戸を外し、庭に床几(※)を並べ、それでも足りず、庭先で立って聞く人たちもいた。

「小雪の散らつく日でもそうでした。でも先生がお話しくださると、その場が異様なほど熱くなって。今思うと、ありえないほど幸せな光景でした」
 昭和51年、真宗の正しい御本尊をめぐり、村を仕切っていた同行との大法論が起きる。

 親鸞聖人の仰せどおり、御名号本尊を勧めると、疑謗の砂塵が巻き上がる濁世である。この地でも、高森先生のお話を聞き続ける人と、寺に従う人とにハッキリ分かれた。

 それから30年──。毎月4、5回あった寺の説教も、今は報恩講など年に数回。それでも本堂は埋まらず、かつての面影はどこにもない。
 満堂の2000畳・親鸞会館で毎月聞法するたびに思う。
「昔は説法となれば、仕事をやめて皆寺へ参った。そんな村は、ここと能登(石川県)くらいだと先生も褒めておられたのに……。それがこんな状態だから、もし親鸞会がなければ、浄土真宗はどうなってしまうかと、恐ろしく思います」

 永年ともに聞法してきた夫を6年前に亡くし、広い家を1人で守る。
「ここに嫁いでいなければ、私の仏縁はなかったでしょう。そう思うと、この家を大事にしたいんです」
 高森先生にお会いして50年。「こんな幸せありません。弥陀の本願を聞かせてもろうて」と即答する。

「聞いただけでは喜べん、と言うとる人は、まだ聞いてもおらんのと違いますか。そらごとたわごとの世で『真実を聞けた』、それがどんなにすごいことか、分かれば喜べんはずないですから」

※床几……庭に置いて月見や夕涼みに使う細長い腰掛け。

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